「心に留めた風景」17
「ドラァグクィーン」
高校時代の69年にビートルズの「ホワイト・アルバム」がリリースされた時、 ジャケットにはタイトルも演奏者名もない表裏真っ白なLPジャケットだったが、 それがビートルズの新譜だという情報は得ていたので、輸入盤で購入した。 それと前後して登場したキング・クリムゾン、イエス、 ムーディー・ブルース、ピンクフロイド、ELPなどの イギリス系プログレッシブ・ロックのジャケットも 写実的、幻想的なイラスト以外に文字での情報はなく、 また、メンバーのプロフィールや顔写真も公表されていなかった。 しっかりしたサウンド・コンセプトのもと、神秘性と秘密主義を貫いて、 進歩的前衛バンドとしてのブランド・イメージを確立していった。
初めてドラァグクィーンに接したのは東京、六本木のクラブだった。 暗闇からスポットライトで青白く浮き上がった彼らは、 眩いほどのオーラを放ち、無機質である種の恐怖感すら感じだ。 まるで近未来の幻想のように現実感乏しく、 激しいリズムに合わせてゆらゆらしているレプリカントのようにも見えた。
それがいつの間にか、マスコミでインタビューを受け、テレビに出演し、 イベントの司会をし、性差別やクラブ文化をコメントするようになった。 こうして白日の下に晒された彼らは、 もはや浮遊感覚、怪しげな毒気や神秘性を失ってしまった。 短絡的な営業姿勢や売名行為によりメジャーという市民権を得たが、 自ら築いたブランド・イメージを捨ててしまうかも知れない。
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