胃の痛みの原因

 胃の痛みの原因となる病気には、胃炎、かいようなど、いろいろなものがあり、症状をうかがうだけで、診断をつけることはなかなか難しいものです。  しかしながら胃かいようと十二指腸かいようにについて言えば、その痛み方に特徴があるため、ある程度両者を区別することができます。たとえば、胃かいようでは、食後比較的早期に痛みがおこることが多いのに対して、十二指腸かいようでは空腹時に痛むことが多いのです。

 あなたの症状は空腹時に胃の痛みがあり、食事をとると痛みが消えるということですので、どちらかというと十二指腸かいようの症状に近いということになります。また、最近仕事の上のストレスが多いとのことですが、ストレスはかいようができる一つの誘因となります。こちらの面からもあなたの症状の原因がかいようである可能性があるように思われます。

 治療ですが、最近はお薬も良いものが多くでていますので、適切にお薬を服用されれば、数日から一週間と比較的短期間で症状がとれることが多いようです。ただし、かいようを完全になおし、再発を予防するためには、長期間の内服治療が必要となります。  ただし、ここまで申し上げたことは、あくまでもあなたの症状から推定したことです。 確実な診断のためには、X線検査や内視鏡検査が必要となりますので、なるべく早く専門医の診察を受けられることをおすすめいたします。

高崎元宏(元高知県立中央病院 消化器科`医長)

おなかがよく鳴る

 おなかがよく鳴るというということですが、この原因を大きく分類すると1)器質的な疾患(消化管のゆ着、新生物など)によるもの、2)自律神経のアンバランスによるものにわけられます。私たちが日常の診療でよくみかけるのはむしろ後者のほうです。

 消化管の運動は自律神経と密接な関係があります。非常に強い緊張状態になったとき、たとえば受験・発表会などのときに急にお腹がゴロゴロいったり、下痢になったりしたことはありませんか? このような症状は、緊張のため消化管を支配する自律神経がアンバランスな状態になりおこるのです。逆に、同じ様な緊張状態でも逆に便秘になってしまう場合もあります。

 あなたの症状は10年も前から続いているわけですし、年齢も25歳とお若いですから、むしろ自律神経的なものを考えたほうが良いように思います。ただし、器質的な疾患がないということを確認しておいたほうが良いので、一度病院で診察を受けられたほうがよいでしょう。その際、最も簡単なスクリーニング検査は検便です。検便で血液反応(免疫学的便潜血反応)が陰性であれば、まず大きな病気がひそんでいることはないと考えられます。その上で、おなかが鳴ることをあまり気にしないようにすることが一番良いのではないでしょうか。

高崎元宏(元高知県立中央病院 消化器科`医長)

食道静脈瘤の治療法について PDF(533Kbyte)JPEG(93Kbye)

  食道静脈瘤(静脈瘤)は、肝硬変のように肝機能が著しく低下した状態にある人に、ときどきみられる病気です。これは、食道の下部を中心に、正常では存在しないような大きな血管ができてくる病気で、時には静脈瘤が破裂して大出血をおこすことがあります。肝臓の病気は、かなり悪化するまで自覚症状がでないことが多いですが、静脈瘤も、破裂するまで全く症状がないのが普通です。昔は静脈瘤破裂のため大出血をおこした患者さんの半数近くが亡くなるといわれ、非常に恐ろしい病気でしたが、最近では出血しても適切な治療を受ければ命にかかわることは少なくなりました。

 とはいっても、すぐに治療を受けなければ、命の危険があることは同じですから、出血をおこす前の静脈瘤を早期に発見し、治療をすることが大事になってきます。かつては静脈瘤の治療としては、大きな外科手術が必要であったのですが、もともと肝臓が悪い人に、負担の大きい大手術をするわけですから、術後の経過が思わしくない場合もありました。そういうわけで、最近はもっぱら手術をせずに、食道静脈瘤硬化療法(硬化療法)という方法で治療することが多くなりました。  硬化療法は、日本では15年ほど前から普及してきた比較的新しい治療法です。これは、内視鏡(胃カメラ)を使って、静脈瘤内に硬化剤という薬を注射し、静脈瘤の血管を破壊する方法です。

 高知県でも、いくつかの施設で硬化療法が行われるようになり、すでに多くの患者さんが治療を受けられています。治療のスケジュールは、施設によって違うようですが、一週間に一度この治療を行い、だいたい三回で静脈瘤の消失が得られます。治療後の成績は良好であり、また合併症は、発熱や胸痛が数日間みられるぐらいが普通です。  肝臓が悪いといわれた人全員に静脈瘤ができるわけではなく、むしろあまり多くない合併症ですから、特に神経質になる必要はありませんが、主治医の指示どおりに、定期的な検査や治療を続けていくことが大切です。

高崎元宏(元高知県立中央病院 消化器科医長): 平成8年1月25日

総胆管結石(そうたんかんけっせき)の内視鏡的治療について

 胆石は、特殊なものを除くと、胆のう内にできる胆のう結石と、総胆管にできる総胆管結石の2つに大別されます。後者の総胆管結石は、胆のう結石にくらべると、強い痛み・黄疸・発熱などの重い症状がでやすく、ときには死に至ることもあります。胆のう結石については、腹腔鏡下胆のう摘出術(ふくくうきょうかたんのうてきしゅつじゅつ)を行うことで、身体的な負担が少ない治療が受けられるようになりました。総胆管結石については、胆のう結石と同じように腹腔鏡を使っても治療ができますが、手技がかなりむずかしく、まだ一般的とはいえません。さて、総胆管結石を内視鏡(いわゆるカメラ)で治療する方法は内視鏡的乳頭括約筋切開術(ないしきょうてきにゅうとうかつやくきんせっかいじゅつ)と呼ばれます。この方法は20年ほど前に初めておこなわれ、10年ほど前から広く普及していますが、高知県では、まだあまり行われていないようです。

 高知県立中央病院では平成4年から、この方法を導入し、現在までにすでに80名近くの患者さんが治療を受けられています。治療の具体的な方法は、1)内視鏡を挿入し、胆管の出口である十二指腸乳頭(乳頭)まで進める、2)ワイヤー型のナイフを乳頭に挿入し、高周波電流を用いて切開する、3)バスケット鉗子という道具を使って結石をつかんで取りのぞく、という順序で行います。切開の時と結石を取りのぞく時に、軽い痛みがある程度で、全身麻酔はいりません。また、翌日から、食事もとれ、とくに安静を守る必要もありません。合併症としては、急性すい炎・穿孔(腸に穴があくこと)・出血が報告されておりますが、当院では、数人の患者さんに急性すい炎が発生しただけで、ほかの合併症はおこっておりません。

 治療は入院して行いますが、普通は、一週間以内に退院となります。治療の成功率は約95%と高く、特に結石の大きさが15mm以下の方は全例成功しております。なお、胆のう結石がある方は、この治療のあとで、胆のう炎がおこりやすくなるため、原則として後日、腹腔鏡下胆のう摘出術を行うようにしております。

 このように、内視鏡を用いた治療の進歩はめざましいものがあり、患者さんの身体的は負担は、年々低下してくるものと思われます。

高崎元宏(元高知県立中央病院 消化器科医長): 平成7年6月8日

急ピッチのピロリ菌研究

 

日本人に多い悪性腫瘍である胃がんは慢性胃炎(胃炎)と大変密接な関係があることが古くからわかっていましたが、胃炎の原因については定説がありませんでした。10数年前にオーストラリアの若い研究者が人の胃の中に住むヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)という細菌の培養に初めて成功しました。その後の研究によって、このピロリ菌が胃炎の発生と密接な関連を持っていることが判明しました。

 さらにこの菌が胃・十二指腸かいよう・胃がんなどの原因になりうることが証明されつつあり、1994年WHO (世界保健機構)の下部組織であるIARC(国際がん研究機関)は、「ピロリ菌は明らかに胃がんの発生に関係がある細菌である」ことを認定し、さらに同年NIH(米国国立衛生研究所)は、ピロリ菌陽性の胃・十二指腸かいようの患者さんに対しては初発・再発に関わらずピロリ菌をなくする治療(除菌療法)を行うことを勧告しています。

 ピロリ菌の感染経路は水を介した経口感染であろうと推定されており、その感染率は発展途上国において高いことが知られています。日本は先進国としては例外的にピロリ菌の感染率が高く、自覚症状が全くない人を対象とした研究でも、40歳代以上のピロリ菌の感染率は約80%と高率であったという報告もあり、胃がん、胃かいよう、十二指腸かいようの患者さんでのピロリ菌感染率は、それぞれ90%、90%、80%前後とされています。  ピロリ菌に感染しているかどうかの検査法としては、色素を使った内視鏡検査で胃炎の程度を判定することによって、間接的にピロリ菌の有無をある程度推定することも可能ですが、正確な診断のための検査としては、血液の抗体検査、病理組織検査、細菌培養検査、ラピッドウレアーゼ・テスト(尿素を分解する酵素を検出する検査)、ウレアブレステスト(尿素から発生する呼気中の二酸化炭素を検出する検査)などを行う必要があります。感染の有無については一種類の検査で判定するのは困難であるため、通常は複数の検査を組み合わせて判定することになります。

 最近、胃・十二指腸かいようの患者さんに対してピロリ菌の除菌療法を行うと再発率が著しく低下することが判明し、欧米においては除菌療法が広く行われるようになりつつあります。しかしながら、日本ではまだ除菌療法も診断のための検査の多くも保健制度上認められていません。  現在、日本でのピロリ菌の最も良い治療法を確立するために全国レベルの治験(薬の効果・安全性などについての研究)が行われていますので、近い将来、一般病院でピロリ菌の除菌療法ができるようになると思われます。ピロリ菌が胃がんの原因になりうるとしても、それは長い年月を経て胃炎が進行した後に、胃がんの発生の危険性が高まる可能性があるということですから、かりにピロリ菌陽性と診断されても治療をあわてる必要はありません。また、適切でない除菌療法が薬に対する耐性を持ったピロリ菌を増加させる可能性も指摘されており、不十分な治療を行うことは長い目で見るとかえってマイナスになる可能性があります。

 ピロリ菌に関する研究は全世界で急ピッチで行われており、今日の知識は明日には通用しないようなめまぐるしい進歩を示しています。日本での安全で確実な治療法が確立されるまで、もう少しお待ちいただくようお願いいたします。

高崎元宏(元高知県立中央病院 消化器科医長): 平成8年9月12日

寄生虫アニサキスによる胃痛

タ食時に生の魚を食ベ、夜中ごろから激しい腹痛とおう吐に見舞われることがあります。これは生魚の肉の中にアニサキスという寄生虫が隠れていて、この虫が胃の壁に食いつくための症状で、病名としては胃アニサキス症といいます。魚の種類としてはサバ、イカ、アジなどで、頻度としてそんなに多いものではありませんが、診察する医師の側でこんな病気があることを念頭においていないと、時に見落とされることがあります。

 まず症状の特徴は、タ方までは何の症状もなくおいしくタ食をいただきご機嫌で床についたのに、就寝して間もなくのころか、午前2時か3時ころに突然胃のあたりの激しい痛みで目が覚め、のたうちまわるほどです。 痛みは三十分ほどでだんだん和らぎはじめますがほっとしていると再び前と同じような痛みが起こり、時には吐き気が強く、胃の中のものをおう吐したりします。そのうち症状が軽くなりますが、また痛みがぷり返し、ひと晩中これを繰り返します。一般に発熱や下痢はありません。

胃体下部に刺入したアニサキス幼虫。
鉗子で虫をつかんで引き抜く途中です。
とれました。これで痛みはなくなります。

  このような症状は、胆石でも起こりますので診断の決め手となるのはタ食時に生の魚を食べたかどうかです。一般に焼いたり煮たりすると虫は死んでしまいますが、サバの場合には魚肉が厚いので、しめサバや魚が生焼けの状態では虫が生きていることがありこれを食べると同じように発病します。 さて、夜中か早朝に病院で診てもらいます。

胆石のときは腹部のエコー検査がよいのですが、胃アニサキス症の疑いがある時には内視鏡検査がもっとも確実な診断法で同時に治療にもなります。体長2cmほどの白い糸のような虫(2匹以上の時もあります)が胃の壁に食いこんでいるのが内視鏡で見えまずので、鉗(かん)子で虫をつかんで虫体がちぎれないようにゆっくりと引き抜いて胃外へ取り出します。それだけで激しかった痛みや吐き気はうそのように消えてしまいます。あとは、数日の間胃薬を飲んで、虫の影響で起こった急性の胃炎が治るのを待つだけです。

依光幸夫(元高知県立中央病院 消化器科部長・中央内視鏡室長): 平成7年5月4日
論文「高知県山間部地域における胃アニサキス症」(神崎雅樹著)も参考にして下さい。

血液での胃がんの早期診断 PDF(211Kbyte)JPEG(111Kbyte)

 最近、胃がんによる死亡率は年々低下してきていますが、いまだに癌による死亡の大きな部分を占めており、日本では欧米の国々に比べて胃がんの発生・死亡率がずいぶん高いことが知られています。そのために日本では胃がんの早期診断・治療を目的とした胃レントゲン撮影による胃集団検診がかなり以前から普及しており、胃がんによる死亡率の低下のために大きな貢献をしているものと思われます。すでに新聞やテレビなどでごらんになった方もおられるかもしれませんが、胃レントゲン撮影に加えて、胃がんの早期発見のために大変役立つ血液検査法が開発され話題になっています。  

前庭部後壁の分化型型早期胃がん。 その近接像です。潰瘍瘢痕を伴っていたため腹腔鏡で手術しました。早期がんでリンパ節転移はありませんでした。

 日本人の胃がんは、慢性萎縮(いしゅく)性胃炎(胃炎)という日本人に多いタイプの胃炎をもとに発生してくる高分化型胃がんという胃がんが大部分を占めることが特徴です。このタイプの胃がんは比較的悪性度が低く、早期に発見できれば適切な治療を行うことで完治する率が非常に高いことが知られています。また、ごく早期の場合は内視鏡的な胃粘膜切除術(内視鏡を使ってがんを正常な胃粘膜を含めて切り取る治療)の適応となり、手術をする必要もなく完全に治すことができます。

 高分化型胃がんは、古くから胃炎の程度とその発生の間に因果関係があることが知られていました。したがって、その胃炎をなんらかの方法で拾い上げることができれば、胃がんの早期発見の可能性が広がるわけです。胃炎は、内視鏡検査をすればその診断は簡単で、胃レントゲン撮影でもかなりの割合で判定できます。しかしながら、どちらの検査も受けるためには若干の負担は覚悟する必要があります。

 最近、胃炎の程度を採血するだけで簡単に判定できる方法が開発されました。それは、胃の粘膜で作られるペプシノゲンという物質を測定する方法です。実際に、いくつかの施設でこの方法の有効性を判定するための研究がすでに行われており、かなり高い確率で胃炎の正しい診断ができることがわかっています。また、胃がんの発見率についても、この方法は従来の胃集団検診と比べて遜色(そんしょく)がないという研究報告もみられます。  ただし、この方法は、あくまでも直接胃がんを発見するのではなく、胃がん発生のもとになる胃炎を拾い上げる方法ですから、胃炎とあまり関わりのない一部の胃がん(未分化型胃がんなど)が見落とされたり、また偽陰性(がんがありながら陰性と判定されること)があるなどの問題もあります。少なくても、採血によるペプシノゲンの検査は検査を受けるのに負担が全くなく、胃炎の発見のためにはたいへん良い方法であることは間違いありませんので、将来胃集団検診の一部に組み込まれることになるかもしれません。

高崎元宏(元高知県立中央病院 消化器科医長): 平成9年4月24日

「切らずに治せる胃がん」とは

 日本人に多いがんの代表である胃がんの治療といえば、まず外科的な開腹手術を思い浮かべる方が多いのではないでしようか。ところが、最近では、手術を行うことなく内視鏡による治療(内視鏡的治療)で胃がんを治すことが広く普及してきています。

 内視鏡的治療は胃粘膜切除法とレーザー照射法の2つに大別されますが、いずれの方法でも治療に要する時間は10〜20分ほどですし、治療による合併症の発生頻度も大変少なく、入院期問も数日ですみます。また、胃は治療によってできた潰瘍(かいよう)が治れば、わずかな瘢痕(はんこん)を残すのみで、ほぼ完全に元通りに戻ります。 つまり内視鏡的治療で胃がんを治すことができれば、治療による体への負担や後遺症は、ほとんどないということになります。

左側の写真が直径4mmのIIc型早期胃がんです。中の写真は治療後。右の写真は治療半年後です。このような小さな胃がんは転移をおこすことはなく、病変を内視鏡で切除するだけで100%治癒します。

 しかしながら、内視鏡的治療後に再発や転移を起こしてしまっては困ったことになりますので、多数の手術症例の検討からこの治療の適応となる条件が決められています。 その条件とは、胃粘膜内にとどまるがんであって、リンパ節などに転移のないものであることですが、臨床的には、がんの大きさが比較的小さくて(10〜20mm以下)、組織検査で分化型胃がんという種類のがんであることが証明できたものであれば、多くの場合、内視鏡的治療でがんを完全に治癒することが可能です。

一般に、胃がん検診を毎年受診されている方が胃がんと診断された場合には、比較的早期の胃がんである場合が多く、内視鏡的治療の適応となる条件を満たしている可能性が高くなります。 最近では、これらの条件を完全には満たさない胃がんであっても、内視鏡的治療で治ってしまうものが多いことが分かってきています。このような胃がんには腹腔鏡(ふくくうきょう)を使った負担の少ない外科的手術が行われることもあります。 ここで注意が必要なことは、一つの胃がんが内視鏡的治療で完全に治ったとしても、胃がんの発生母地となった胃粘膜はそのまま残るわけですから、別の場所に新たな胃がんができてしまうことがあり得ます。そのため、内視鏡的治療後は定期的に内視鏡による検診を受診していただくことになります。

 本治療法が開始されて、10年以上経過した現在では、内視鏡的治療後にごく小さな胃がんが新たに見つかり、2回目の内視鏡的治療を受けられた方も多くなりました。 なお、胃がんの患者さんの胃はヘリコバクター・ピロリという細菌に感染していることが多く、内視鏡的治療後にこの菌を殺してしまうこと(除菌)で、新たな胃がんの発生が抑えられるという報告もあり、除菌治療が今後普及してくるかもしれません。 いずれにしても、「胃がんを切らずに治す」ためには、早期の発見が不可欠ですので、定期的な検診を受けることが大切です。

高崎元宏(元高知県立中央病院 消化器科医長): 平成9年4月24日


 がん検診は無益、この一部の医師の発言が全国的話題となりました。本当にそうでしょうか。今回は胃がん検診についてお話しします。 胃がんの死亡率は近年減少しました。しかし、罹(り)患率は上昇を続けており、胃がん患者は少なくなっていないことを示しています。ではなぜ死亡率が減少したのでしょう。手術や抗がん剤治療の進歩ももちろんですが、最大の要因は胃がんが早期がんのうちに、あるいは進行がんでも救命可能な段階で発見される割合が増えたからです。

胃体部小彎に潰瘍があります。一見普通の潰瘍と思われますが、周辺にわずかな陥凹が見えます。

抗潰瘍剤2週間内服後の内視鏡像です。潰瘍は治癒していますが、赤い色をした陥凹が目立つようになりました。組織検査の結果は未分化型がんでした。

  進行胃がんですら自覚症状に乏しいことも多く、検診は早期発見に役だっています。実際に検診で発見された胃がんの約65%が早期がんです。また毎年検診を受けている人に早期がんが多いことも確認されています。一方では毎年受けていても高度進行がんで発見され、検診が役立たなかった入がいることも事実ですが、全体としてみれば検診受診者の死亡率は明らかに低いのです。

  では、検診でどの程度の割合で胃がんが発見されるのでしょうか。高知県では発見率0.15%、すなわち1000人に1.5人の割合です。レントゲンで異常を指摘される割合が約15%ですから、異常と通知をうけた人100人のうち1人に胃がんが発見されたことになります。また、検診の間隔を短くすることは早期発見につながりますが、医療費の増大や、逆に受診率の低下をきたすことにもなりますので住民検診としては年に一度でよいとされています。 老人保健法による国の施策として、胃がんの住民検診が全国的に施行され13年が経過しました。その間、検診が胃がん死亡率減少に寄与してきたことは十分評価されています。

 しかし、近年は受診率の低迷と受診者の固定化などの問題点が指摘されはじめ、より多くの人に受診してもらうための工夫として、他のがん検診と同時に施行したり、年齢の節目として記念検診を実施したりして、受診者の二−ズにこたえる方向に進んでいます。大切なのは検診は義務的なものではなく、自分の健康を守るものだという意識をもつことです。 最近血液中のペプシノゲシという物質を測定することにより、胃がんの補助診断が可能となっています。従来のバリウムによる胃レントゲンと併用することにより、発見率の向上が期待され、今後の集団検診に応用されていくと思われます。

 職場検診や人間ドックをうける機会のない人は一人でも多く、住民検診を受けてもらいたいと思います。手術治療をする立場の私たちは、無症状で早期に発見された患者さんに対して、検診をうけて本当によかったですねと一緒に喜ばないではいられません。

長田裕典(高知県立中央病院 外科医長)

 「胃は切っても元に戻りますか?」胃の手術を受ける患者さんからよく聞かれます。この質問の意味は二通りに解釈できます。 まず,小さくなった胃が,切る前の大きさになるかというのが一番目です。これに対する答えは「いいえ」です。切除して小さくなった胃は小さくなったままです。毛髪や爪以外の人間の身体は切り取られると,その部分はなくなったままで,同じ形のものが再びできるということはありません。胃も同様で,2/3切除すれば残った1/3で生活しなくてはなりません。 二番目は,小さくなった胃で元通りの生活に戻れるかということです。これには「はい,戻れます」と答えます。手術して胃が1/3になると,はじめのうちは食べられる量は当然減ります。しかし時間の経過と共に次第に手術前の状態と同じくらい食べられるようになってきます。

 普通,飲み込んだ食物はまず胃の中に貯めておかれます。これが胃液と胃の運動によって粥状になり,少量ずつ胃から腸に送り出されます。胃を2/3切除してしまうと食物を貯めておくことも,貯めた食物を粥状にしてしまうこともほとんどできなくなります。この場合,飲み込んだ食物は食道を通過して残った胃の中に入り,食物そのものの重さや,続いて飲み込んだ食物に押される事により腸に移動します。胃液で粥状になる前に腸の中に食事が流れ込むので腸に負担がかかるようになります。 この負担を少しでもやわらげるために,手術後は次のように食事をしていただきます。

  1. 少しずつよく噛んで口の中で粥状にしてから飲み込むようにする。
  2. .一度に食べられる量が少ないので食事の回数を増やす。

このように口で胃の代わりをすることによって腸の負担が軽くなります。もちろん入院中は流動食から始めて消化の良いものを食べますし,消化剤も服用するので負担はさらに少なくなります。 以上のような食生活を手術後数カ月も続ければ,残った胃の調子もよくなり次第に普通の食生活に戻ることができるのです。さらに身体をよく動かすことにより足腰に筋力を付ければ体力の回復につながります。体重は多くの人が数キロくらい減少しますが,食生活が規則正しくされていれば全く気にすることはありません。

武田 功(元高知県立中央病院 外科医長)

 最近、自分の便を見たことがありますか?

 昔は、便所といえばいわゆるくみ取り式便所が多く、肛門(こうもん)から出た便はそのまま便つぼへ落ちていって、見ることができませんでした。 ところが近年は、水洗式トイレが主流になってきましたので、その気になれば流してしまう前に十分観察することが可能です。 普通、人は1日に1回程度大便をします。この回数があまりに多いと、頻便(しばしば下痢)で、少ないのは便秘です。ただし、これは非常に個人差が多いので、回数だけでは異常とはいえません。例えば、女性に多い習慣性便秘などでは、3-4日に1度でも、それがいつものことであれば病気ではありません。しかし、いままで毎日出ていたものが、急に出なくなったりした場合は、何か異常を疑う必要があります。特にお年寄りの方で急に便の回数が変わったりした場合は、一度病院で相談してみてください。

 一方、便の色は、胆汁という黄褐色の消化液の色と、食べたものの色が混ざってできますので、普通は暗い黄色から濃い茶色ぐらいの色です。この色が変わってくると、何らかの病気のサインのことがあります。 白色便といって、便が白っぽくなることがありますがこれは胆汁が出てない時になり、肝臓や胆道系の病気の時に起こります。また、赤い便、いわゆる血便ですが、この原因としては、痔(じ)のことが一番多いのですが、ときには他の重大な病気が隠れていることがあります。赤い便が出たら一度は病院で見てもらってください。

 あとは、黒色便といって真っ黒い便が出ることがあります。これも実は、血液の混ざった便の一種で、胃や十二指腸など上部消化管からの出血が疑われます。 ただ、便が黒くなるのはその他にも、貧血の薬の一種を飲んでいたり、最近ではイカスミ料理を食べたりして起こることもあります。しかし、特に心当たりのない場合は、やはり一度は調べてもらうべきでしょう。このように、便の色を見るだけでもいくつかの病気をみつけることができます。

 また数年前より、大腸がんの検診として大便を調ベてその中に含まれる微量の血液(潜血)を検出する方法が行われています。がんができるとその表面から少しずつ出血することが多いのですが、これは目で見て分かるほどではないので、潜血を免疫法という方法で検出します。検査としては、便を容器に入れて持っていくだけです。これが陽性であれば、さらに大腸の精密検査が必要です。 近年、大腸がんがだんだん増えてきています。これは食生活が洋風化して、脂肪分の摂取が増えたのも一因ではないかといわれています。

 中年以降では、検診としてたまには便の検査もしてみてください。 普段はいらないもの、汚いものとして邪魔にされている大便ですが、体の中を通ってきたものですので、よくよく見ればいろいろなことが分かります。時々はゆっくり眺めてみてください.

徳岡裕文(元高知県立中央病院 外科部長・副院長)

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高知新聞に連載された医療相談「診察しましょう」を再構成しました。 ご質問はメールでどうぞ。